法を超えて:業績の先行指標となるサステナビリティ

人とモノ、情報、プロセスなどがネットワークに接続する「ハイパーコネクテッド」な貿易経済では、ほぼすべての業績が追跡、評価されます。多国籍企業やバリューチェーンの取引先として、価格、資本コスト、サービス、品質などを評価していることでしょう。多くのBtoB企業と同様に、環境、労働、倫理的な実践についても報告するかもしれません。企業にとってサステナビリティはもはや監視の対象ではありません。環境・社会・ガバナンス(ESG)のメトリクスが、従来のコストや品質の統計データとともにサプライヤーの評価に使用されているのです。

品質管理革命のように、ただしその10倍の速さで

サステナビリティがいかに早く中心的存在になったかを理解するには、W・エドワーズ・デミング博士の研究から始まった品質管理革命と関連づけるとよいでしょう。今日、私たちがビジネスの基本として認識している品質管理は、紆余曲折を経て、現在の形に至るまでに70年以上の年月を要しました。当時「急進的」とみなされたデミング博士の主な主張には、コスト削減の手段として品質を第一に考えること、継続的改善と教育という包括的なアプローチを適用すること、また、品質はすべての人の責任であるとする考え方などが含まれていました。しかしそれは、慣習的なビジネスの考え方とは全く異なるものだったのです。それにもかかわらず、デミング博士はアメリカ、そして後に日本においても品質管理運動の中心的人物となりました。第二次世界大戦後、戦時中の連邦政府との契約終了を機に、多くの主だった品質管理の慣行は放棄されてしまいました。それでも、日本の製造業はデミング博士の原則を受け入れ続け、特に自動車産業においては世界をリードするまでになったのです。他の国々がこの遅れを取り戻すのには何十年もかかりました

品質の歴史 簡易年表出典:ASQ.

今日、環境、労働、倫理慣行に関するビジネスメトリクスでも、同様の成文化・標準化が見られます。しかし、気候危機やパンデミック、武力紛争、その他のひずみに煽られ、そのスピードはさらに加速しています。

任意開示から必須情報へ

サステナビリティに関する情報の提供は、依然として大部分は自主的な取り組みです。
通常、何をいつ、どのように開示するかは企業が決定できます。しかし、ステークホルダーの期待の高まりとESGデューデリジェンス規制の義務化により、情報提供は自発的なものから義務的なものへと移行が進んでいます。たとえ規制によって報告が義務づけられなくても、サステナビリティ関連のリスクと機会を企業がどのように管理しているかに関心を持つ顧客や投資家、従業員からの強い要請により、報告は義務づけられることになるでしょう。

サステナビリティパフォーマンスに関する情報を発信し始めたばかりの組織は、一般的に、コンプライアンスを維持することを目標とします。つまり、必要とされる規範や基準に対して、最低限の提供・履行を行います。
しかし、法令や基準の遵守を怠った場合には、コンプライアンス違反の発見が遅れることがあります。もし、企業活動が負の影響を及ぼすことが判明して是正が必要となった場合、措置によっては高額な費用がかかることがあります。しかし、懸念すべきは金銭的な問題にとどまりません。規制措置や違反を認識した顧客も責任を問うことができるのです。

違反をしていなければステークホルダーを安心させることができるかというと、そうではありません。欠陥が認められれば、規制違反と同様に短期間でその企業の評価は損なわれます。それ故、大事に至る前に欠陥を特定し、対処するのが望ましいと言えるでしょう。

遅行指標から先行指標へ

品質や財務指標と同様に、ステークホルダーはサステナビリティのメトリクスを必要としており、業績について十分な情報を得たうえで意思決定を行う必要があります。違反やインシデントをゼロにすることを目標として、実績に基づいたコミットメント遵守する場合、企業にはコンプライアンス基準に基づくマネジメントシステムが必要です。しかしながら、不適合件数の把握は究極の遅行指標です。このようなメトリクスでは、マネジメントシステムが十分に機能しているかどうか、競合他社とどのように異なるかを判別することはできず、すでに発生したことを防止するには遅すぎます。事業成果の改善を目指す人々にとって、これらのメトリクスはパラダイムシフトの役に立ちません。

法令の遵守状況を測る指標からは実際の業績はほとんど読み取れません。
それでも脆弱性の特定には役立つので、事後的には有益であると言えます。世界中に何百ものサプライヤーを持つグローバル企業が、膨大な数にのぼる調達先の国や地域の法令を把握することは不可能です。このような場合、多くのリスクが存在するため、予防的コントロールの効果を改善して許容可能なリスクレベルに到達したいと考えるでしょう。したがって、広範なサプライネットワークを持つ顧客の多くは、早期の警告サインと、それに対する措置を講じる制御プロセスを望むのです。

先行指標には予測的な有用性があります。
企業は、より的確で先見性と深い洞察に基づく事業戦略を策定するために、組織のパフォーマンスの先行指標となるデータを体系的に収集し、評価しています。サステナビリティ分野では、環境、労働、倫理に関するマネジメントシステムの成熟度を理解することが求められます。

これにはサプライヤーネットワークの評価も含まれます。

積極的かつ継続的な改善アプローチ

望ましくない事象を未然に防ぎ、業績を向上させるために、方針、実施対策、報告書の策定は不可欠です。まず、現在の能力を一連のパフォーマンス基準に照らし合わせてマッピングすることで、実施対策のベースラインを設定することから始めます。ベンチマーキングシステムが導入され、長期的にパフォーマンスの追跡評価が行われると、企業とその取引先はどのように改善すべきかを判断することができるようになります。

これが、マネジメントシステムのパフォーマンス測定をするという、ESG評価とスコアカードの目的です。デミング博士の前提に戻ると、マネジメントシステムが時間経過とともに改善されるようにするための標準手順として、定期的なパフォーマンス評価と報告が組織には必要です。定期的なモニタリングと評価により、企業は自社の方針、プロセス、手順に関して、より多くの情報やデータに基づいた意思決定を行うことができます。しかしながら、どの企業にもその方法が当てはまるわけではありません。改善策は、その組織にとって最適なものを選択しなければなりません。最終的な目標は、サステナビリティ目標に対する意識とコミットメントを高めるために最も包括的で応用可能な知識を提供することです。

それこそが私たちEcoVadisの最も得意とするところです。当社は、サステナビリティパフォーマンスを改善するための規範的なロードマップをカスタマイズして企業に提供します。また、規制や顧客の要求がますます厳しくなる中で、企業がサステナビリティマネジメントシステムを構築するために必要なツールとサポートを提供します。詳細はこちらを御覧ください。

著者について

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EcoVadisは、世界のビジネスにおいて最も信頼されるサステナビリティ評価の提供をミッションとする会社です。専門知識とエビデンスに基づく独自の評価システムにより、企業とその取引先のサステナビリティパフォーマンスを監視し、改善のための提案を行っています。EcoVadisによる評価は200の業種と175カ国の状況を網羅しており、実用的なスコアカードやベンチマーク、脱炭素に向けたアクションツール、インサイトを通じて、環境的で社会的かつ倫理的な改善を促進します。

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