CSRDが企業のバリューチェーンに求める3つの難題 ー 持続可能な資材調達に与える影響について

バリューチェーン全体における環境や人権への影響の開示から、スコープ3排出量の報告まで、EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)では、持続可能な資材調達と報告に関して従来の規制よりも多くのことが求められています。

今年初めに発効された企業サステナビリティ報告指令(CSRD)により、世界の報告状況は根本的に変化すると考えられます。CSRDは、非財務情報開示指令(NFRD)の基盤を活かしつつその評価範囲を拡大することで、EU内外の5万社以上の企業に対して環境、社会、ガバナンス(ESG)報告を強化するよう求めています。EUのサステナビリティ報告基準(ESRS)と連携し、投資家やその他のステークホルダーが利用可能なサステナビリティデータの幅、質、比較性を大幅に向上させることがその目的です。企業はCSRDにより、自社の事業をはるかに超えた、バリューチェーン全体の環境的・社会的影響を報告する義務を背負うことになります。具体的には、「ダブルマテリアリティ」の視点からリスクと影響をマッピングすること、信頼できるESG目標を設定してその進捗状況を追跡すること、スコープ3排出量を報告することが必要です。この記事では、CSRDによるこの新たな要件が企業の持続可能な資材調達と報告に与える影響を解説します。また、企業がコンプライアンスに備えて規制上の義務を機会に変えるために、EcoVadisが提供できるサポートについてもご紹介します。

EU、米国、英国、日本をはじめ、世界中の企業で準備が必要

CSRDに示された報告要件は、今後5年間で段階的に導入される予定です。すでにNFRDの対象となっている約1万2,000の大企業および上場企業は、2024年のデータに基づいて2025年から報告を開始する必要があります。2026年には報告対象企業が拡大され、EU域内で、「従業員250人超」「純売上高4,000万ユーロ超」「総資産2,000万ユーロ超」の3基準のうち少なくとも2つを満たすすべての大企業が対象となります。2027年からは、一定の基準を満たす上場中小企業も対象です。

また、EU域外に親会社を持つEU域内の子会社も、上で示した各条件を満たす場合は報告対象となります。さらに、EU域内での純売上高が1億5,000万ユーロ超あるEU域外の企業で、EU域内に特定の閾値を超える1つ以上の子会社または支店を持つ親会社は、2029年から報告を開始しなければなりません。この指令によって直接影響を受ける可能性のある非EU企業は推定1万社あり(英語サイト)、その3分の1近くが米国、13%がカナダ、11%が英国、8%が日本の企業です。グローバルなサプライチェーンに参加するそれ以外の企業も、コンプライアンスのために下流のパートナーからデータを要求されることで間接的な影響を受けると考えられます。拠点がどこであれ、持続可能な資材調達と報告の実施に向けた準備が求められる時代となりました。

CSRDが定める3つの難題をクリアするには

EUの大企業にとっては報告の開始時期が間近に迫っていますが、多くの企業はまだ十分な準備ができていません。EcoVadisがSupply Management Insiderと共同で実施した最近の調査(英語サイト)によると、100社以上の調査対象企業のうち、CSRDのような将来の規制に対応する準備が万全だと感じている企業はわずか22%でした。CSRDに対応するには、サプライチェーンのリスクを効果的にマッピングしてその影響を評価し、サプライヤーのサステナビリティデータを収集する資材調達プログラムが必要です。しかし、多くの企業はこのようなプログラムを構築できるだけのリソース、ツール、社内能力が不足していると報告しています。ここからは、CSRDがバリューチェーンに求める3つの難題と、これらの難題を解決するためのEcoVadisのソリューションをご紹介しましょう。

1) 「ダブルマテリアリティ」の視点から、バリューチェーン全体におけるリスク、影響、機会をマッピングする

CSRDの主な特徴は、企業に対して「ダブルマテリアリティ」の視点から報告を求めていることです。つまり、企業は気候変動やその他のサステナビリティ関連リスクが事業に与える影響(財務的マテリアリティ)を開示するだけでなく、自社の事業やバリューチェーンが人々や地球に与える影響(インパクトマテリアリティ)も報告する必要があるのです。企業の財務パフォーマンスに影響を及ぼすリスクや機会の多くはインパクトマテリアリティに起因するため、通常はインパクトマテリアリティから検討を開始します。ESRSには、生物多様性からバリューチェーンの労働者に至るまで、企業が報告すべきメトリクスが幅広く定められています。そのため、サプライベース全体に及ぶ広範なリスクマッピングを実施し、自社にとってどの項目が重要か判断しなければなりません。

このタスクに最適なのが、EcoVadisのIQ Plusです。サプライヤー文書のAIスキャンと、EcoVadisの評価データを用いて開発された予測分析用のリスクプロファイルを活用することで、企業はバリューチェーン全体のサステナビリティリスクと潜在的な影響をこれまでにないレベルで可視化できます。幅広い機能を備えたダッシュボードを介して、企業はリスクと機会の状況を全体的に、またはサプライヤーごとに確認することが可能です。IQ Plusは、優先すべきリスクを指示する機能も備えています。これは、ESRSが「各悪影響の相対的な重大性と可能性を反映した(negative impacts based on their relative severity and likelihood)」報告を重視していることを考えると、極めて重要な機能です。

2) バリューチェーン全体の環境的、社会的影響に関する目標を設定し、進捗状況を報告する

CSRDに対応するには、情報開示だけでは不十分です。企業は、バリューチェーン全体における重大なリスクや影響への対処状況を追跡するため、「測定可能で成果志向の、期限付きの目標(measurable, outcome-oriented and time-bound targets)」を設定する必要があります。これにより、CSRDはサステナビリティ・デューデリジェンスとその報告とを関連付けているのです。

 

信頼できる目標を設定するため、企業はバリューチェーン全体のリスクをマッピングするだけでなく、サプライヤーレベルでの影響を評価して目標の基準を設定する必要があります。IQ Plusでリスクを特定した後にEcoVadisレーティングを使用すれば、ESRSの要件に密接に沿った21のサステナビリティ基準(さらに多くのサブ基準)に関するサプライヤーのパフォーマンスを基準化できます。また、EcoVadisの評価プラットフォームを利用して、主要なメトリクスに関するサプライヤーのデータを収集することも可能です。これにより、企業はコンプライアンスに対応した目標の設定や、持続可能な資材調達に向けた長期的な基盤構築に必要な洞察を得ることができます。また、評価プロセスの各段階におけるデータの収集および検証に力を入れることで、CSRDで定められた第三者保証の義務を容易に果たせるようになります。

3) スコープ3の排出量と排出軽減策を報告する

CSRDは企業に対して、3つのスコープすべてにおける温室効果ガス排出量とその削減目標を報告するよう求めています。一般的な企業のカーボン・フットプリントの80%はバリューチェーンに起因するため、多くの企業にとってはスコープ3が重要な項目となるでしょう。企業はまた、これらの排出量をカテゴリー別に分解し、1.5℃目標を目指すための自社バリューチェーンにおける対策を示さなければなりません。

多くの企業はまだ、CSRDが要求するスコープ3排出量の把握や削減目標の設定に向けた取り組みを開始したところです(英語サイト)。EcoVadisのカーボンアクションモジュールは、企業がサプライヤーと協力して排出量の透明性を実現します。そして、サプライチェーンの脱炭素化に向け、立ちはだかる障壁を克服できるようサポートします。カーボンアクションモジュールの一部であるヒートマップツールは、複数のデータソースを活用して、バリューチェーン全体におけるカーボンリスクとホットスポットを高度にマッピングします。また、カーボンパフォーマンスを評価することで、バイヤーはサプライヤーの脱炭素に向けた取り組みを包括的に理解でき、評価プラットフォーム上で一次排出量のデータを交換できるようになります。このように、カーボンアクションモジュールはバイヤーとサプライヤーとの継続的な協働を促進することで、バイヤーがサプライヤーの改善を促し、バイヤーによるスコープ3報告の質と粒度が向上するよう支援します。


 

総合的なアプローチでスマートなコンプライアンスを実現

CSRDが示す前例のない難題をクリアするため、企業はサステナビリティを中心に資材調達活動を再構築しなければなりません。環境や人権への影響が出てから受け身で対応するのではなく、これらの影響を積極的に特定して対処する「総合的で持続可能な資材調達プログラム」を構築することで、報告に向けた準備を十分に整えることができます。このようなアプローチをとる利点は、コンプライアンスだけにとどまりません。EcoVadisがBain & Companyと実施した研究(英語サイト)によると、EcoVadisのネットワーク内で持続可能な資材調達を主導する企業は、従業員の満足度が高く、同業他社よりも収益性が高いことがわかりました。自社がCSRDや今後出現する新たな規制の適用範囲内かどうかに関わらず、バリューチェーン全体でサステナビリティの透明性を実現するメリットは、さらに大きくなっていくと考えられます。

著者について

‏‏JA‎ E‏‏‏‏coVadis ‏‏JA‎

EcoVadisは、世界のビジネスにおいて最も信頼されるサステナビリティ評価の提供をミッションとする会社です。専門知識とエビデンスに基づく独自の評価システムにより、企業とその取引先のサステナビリティパフォーマンスを監視し、改善のための提案を行っています。EcoVadisによる評価は200の業種と175カ国の状況を網羅しており、実用的なスコアカードやベンチマーク、脱炭素に向けたアクションツール、インサイトを通じて、環境的で社会的かつ倫理的な改善を促進します。

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