2024年、サプライチェーンの透明性を求める世界的な動きが加速し、すべての地域でEcoVadisの評価件数が増加しました。なかでも中国は前年比37%増という顕著な伸びを示し、米国を僅差で上回って、フランスに次ぐネットワーク内第2位の活動国となりました。責任ある事業運営の重要性が広まるなか、日本企業はどのように歩みを進めているのでしょうか。当社のデータから、日本企業の取り組みの全体像とその進展について分析します。
世界的な流れを受け、EcoVadisによる2024年の日本企業の評価件数は1,230件に達し、評価件数の多さにおいて日本は世界で第10位となりました。これは2023年の約1,170件からの緩やかな増加であり、過去1年間の成長率は5%未満にとどまっています。調査期間全体を通じて、延べ2,000社以上の日本企業が少なくとも1回はEcoVadisの評価を受けています。
図1:2024年の評価件数上位国における、初回評価と複数回評価の内訳
日本企業のサステナビリティパフォーマンスは、着実に改善を続けています。2024年における日本のEcoVadis総合スコアの平均は50.9ポイントに達し、2023年からは1.6ポイント、2020年からは4.3ポイントの上昇となりました。これは、日本企業が持続可能な取り組みを着実に進めてきたことを示しています。
日本のEcoVadisネットワークにおける特徴のひとつが、再評価の受審率の高さです。2024年には、全評価企業のうち1度のみ評価を受けた企業はわずか21%にとどまり、実に79%が2回以上の評価を受けていました。こうした継続的な改善への姿勢は、北欧や欧州といった先進地域を上回っており、日本企業が長期的なサステナビリティに対して、深いコミットメントを持っていることがうかがえます。
これらの前向きな傾向が見られる一方で、日本はアジア太平洋地域における先導的なポジションにはいまだ達していません。2023年からの1年間で、香港特別行政区は+9.1ポイント、台湾は+7.7ポイント、韓国は+5.0ポイントと顕著な成長を遂げています。さらに、韓国は54.6ポイントのスコアを獲得し、シンガポールやオーストラリアを上回って同地域でトップの座に立ちました。結果として、日本はアジア太平洋地域で第5位、評価件数が100件以上の国・地域の中では世界第27位となっています。
なぜこの差が生まれているのか――日本のパフォーマンスを読み解く
EcoVadisの評価手法の基本的な特長として、複数回の評価を受けている企業ほど、スコアが向上する傾向があります。しかし、日本は再評価の受審率が高いものの、その取り組みが上位ランクへの飛躍にはつながっていません。その背景には、周辺のアジア太平洋地域の国々における著しいスコア向上があり、日本がそれらに追いつくことの難しさが浮き彫りになっています。
日本企業のパフォーマンスをEcoVadisの4つの評価テーマ(環境、労働と人権、倫理、持続可能な調達)に分けて詳しく見ると、結果は一様ではありません。全体として前進が見られるものの、「倫理」では46.7ポイント、「持続可能な調達」では41.3ポイントと、平均スコアが低水準にとどまっています。
これは、日本企業が自社内の業務環境や労務面には注力している一方で、より広範な倫理的視点やサプライチェーン全体を通じたサステナビリティマネジメントについては、トップクラスの国々や急速に成長する近隣国と比べて十分ではない可能性を示唆しています。
すべての評価テーマの中で、日本企業が最も高い成果を上げているのは、平均スコア55.3ポイントの「環境」です。ただし、スコアの伸び幅は最も小さく、2020年以降では+3.2ポイント、2023年以降では+1.5ポイントにとどまっています。こうした緩やかな成長の背景には、従業員数25〜99名の小規模企業が、従業員1,000名以上の大企業よりも、平均で7.6ポイント低いスコアにとどまっていることが一因と考えられます。初回評価時の基準値は企業規模によって異なりますが、小規模企業も複数回の評価と改善サイクルを重ねることで、スコアの差は徐々に縮小する傾向があります。
日本における大企業の役割
日本全体のパフォーマンスを理解するうえで重要なのが、評価対象企業の構成に見られる特徴です。日本のEcoVadisネットワークでは、従業員1,000人以上の大企業が評価対象の39%を占めており、61%を占める中小企業(SMEs)と比べても高い割合となっています。これは、グローバル全体(大企業17%、中小企業83%)や、アジア太平洋地域全体(大企業21%、中小企業79%)と比べて、際立った違いです。
これらの大企業は、サプライチェーンの持続可能性をはじめとする、複雑な環境・社会・ガバナンス(ESG)の課題に対応するためのリソースや体制を備えていることが一般的です。そうした企業が一定の割合を占めることは、日本全体のパフォーマンスや、より急速に改善を進める他国との相対的な位置づけに影響を与える要因となり得ます。
図2:日本の企業規模別平均スコア(2024年
日本の平均スコアを牽引する中堅企業
一方で、日本全体の平均スコアを押し上げているのが、従業員数100~999名の中堅企業です。企業規模別で見ても、中堅企業は他の規模の企業を上回るパフォーマンスを示しており、総合スコアは52.5ポイントで、「労働と人権」では54.7ポイント、「倫理」では48.7ポイントを記録しています。特に、「労働と人権」のテーマでは、2020年以降で+6.2ポイントという顕著なスコアの伸びを見せています。
パフォーマンスレベルごとの企業の分布を見ても、こうした違いが浮き彫りになります。スコアが45未満の「中〜高リスク」層に分類される企業の割合は、中堅企業で24%超ですが、大企業では35%、小規模企業では38%に上昇します。
さらに「持続可能な調達」テーマに絞って見ると、状況は一変します。スコアが45未満の企業は、大企業で55%、中堅企業で71%、小規模企業では実に79%にのぼります。この結果は、企業規模を問わず「持続可能な調達」が依然として重要な改善領域であることを裏付けています。
一方で、大企業におけるパフォーマンスの分布はより多様です。中小企業では、いずれの評価テーマにおいても、スコアが25未満の最低評価「不十分」に分類される企業はほぼ見られませんが、大企業の中には依然としてこの層に該当する企業が存在します。特に「持続可能な調達」では顕著で、17%の大企業が「不十分」評価となっています。
一方で、優れたパフォーマンスを示す企業も増えており、現在では日本の大企業の13%がスコア65超を記録しています(中小企業では3〜5%)。このことは、大企業セグメントの中においても、確かなリーダーシップが一部に存在していることを示しています。
図3:日本における持続可能な調達のパフォーマンス分布(2024年・企業規模別
日本企業はEcoVadisネットワーク全体で積極的に関与
EcoVadisの評価は、協働的なアクションの基盤となります。サプライヤーは、バイヤーからの依頼や自主的な取り組みにより評価サイクルを受けることで、サステナビリティ上のギャップを把握し、より強固な取り組みを導入することが可能になります。また、スコアカードのデータは、評価を受けた企業のパフォーマンスに関するインサイトとして、他の関係者と共有することもできます。
以下の図は、日本企業がEcoVadisのスコアカードにどのように関与し、世界中のどの地域に接点を持っているかを示しています。2024年には、日本企業と海外企業との間で5,600件を超えるつながりが確認されました。このうち68%は、日本企業が評価を依頼する側として関与しており、残りは日本企業が評価を受ける側となっています。この偏りは、日本のバイヤー企業が取引先に対して積極的に情報開示を求めている姿勢を示しています。
図4:日本と他国とのネットワークリンク構成比(2024年)
サステナビリティにおける日本の役割と今後の展望
EcoVadisのデータは、日本が継続的な改善に取り組んでいることを明確に示しています。なかでも再評価の受審率の高さは、その姿勢を象徴するものです。一方で、日本がアジア太平洋地域、さらには世界全体で上位に立つためには、「倫理」および「持続可能な調達」におけるパフォーマンスのギャップを埋めることが重要です。
特に大企業には、サプライチェーンの持続可能性を強化することで、変革を加速させるだけの影響力とリソースが備わっています。こうした企業が主導的な役割を果たすことが、日本全体の前進につながる鍵となるでしょう。
EcoVadisのソリューションは、持続可能な変革を加速し、グローバルサプライチェーンでの競争力を高めるための力となります。私たちのサービスについて、詳しくはこちらからご覧いただけます。また、詳細については、こちらのお問い合わせ窓口からお気軽にご連絡ください。