EcoVadis評価の活用で、ESG経営を加速。 東西石油化学が目指すグローバル基準のサステナビリティ

東西石油化学株式会社

購買担当役員兼ESGチーム長  李在晩(イ・ジェマン)様

 

白物家電に使われるABS樹脂や、アクリル繊維の原料となるアクリロニトリル(AN)の生産において、世界有数の生産力を誇る韓国企業のTongsuh Petrochemical Corporation, Ltd.(東西石油化学株式会社)。韓国最大の工業都市である蔚山(ウルサン)で、1969年に創業した石油化学メーカーです。

同社では、2023年に初めてEcoVadisの評価を受審。その後、「持続可能な調達」などへの誠実な取り組みが評価され、2024年の再受審ではゴールドメダルを獲得しています。1年以上の時間をかけて新たなパーパス、ビジョン、ミッションを制定し、サステナビリティの重要性を社内に浸透させてきた同社の取り組みについて、購買担当役員兼ESGチーム長の李在晩(イ・ジェマン)氏にインタビューしました。

——貴社はグローバル企業との取引も多いそうですが、石油化学業界におけるサステナビリティ推進の状況について、どのように感じていますか。

世界的にサステナビリティへの関心が高まる中、石油化学業界にとっても、ESG経営やGHG(Green House Gas)排出量削減は非常に重要な課題です。特に欧州の顧客は、企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)や炭素国境調整制度(CBAM)の施行に向けた動きなどもあり、サステナビリティ推進の動きが非常に速いと感じています。

韓国国内では、欧米ほどESG経営が浸透しているわけではありませんが、当社を含む大手石油化学企業は海外への輸出が多いので、国際的な競争力を高めるため、グローバル企業が求める基準を満たすことが必須条件になりつつある状況です。

——韓国企業と日本企業を比較して、サステナビリティへの意識や施策の内容に違いがあると感じますか。

韓国と日本の間に大きな差はないと思います。ただ、韓国の文化として、意思決定が速いという特徴があり、サステナビリティについても、一度取り組むと決めたことはスピーディに進んでいく印象です。

 

東西石油化学株式会社のウルサン工場外観

——貴社のサステナビリティへの取り組みについて教えてください。

ケミカル製品を製造する企業の責任として、当社では、品質マネジメントシステムであるISO9001、環境マネジメントシステムISO14001を導入し、品質管理、環境保全に努めてきました。2021年には、CEO直轄の「ESGチーム」を設置しています。社内各部署のメンバーが毎月集まり、サステナビリティやESGに関連するさまざまなテーマについて話し合ったり、勉強したりしているのです。

さらに2022年には、アジアのANメーカーとして初めて、持続可能な原材料を使用した製品作りに取り組む企業に与えられるISCC(International Sustainability & Carbon Certification)plus認証を取得し、バイオマス原料を用いたANの生産を開始いたしました。

加えて重点的に取り組んできたのが、会社としての​​パーパス、ビジョン、ミッションの制定です。我々の存在意義や​​今後、会社としてどのような方向性を目指すのか、そのために何が必要なのか、経営陣を中心に1年ほどかけて議論を重ね、現場の声を聴きながら作り込んでいきました。その中であらためてサステナビリティの重要性を表明しました。​​

当社の製品は、世界中でさまざまな用途に活用され、人々の暮らしを支えることに貢献しています。そういった製品を安全かつ安定的に供給することが、われわれのパーパス(存在意義)です。パーパスに基づくビジョン(目指す未来像)としては、「地球環境との共存による持続可能な未来創造」をうたっています。このビジョンを実現するため、従業員全員が実践するべき4つのミッションを掲げました。

ミッションの中では、地域のサプライチェーンの中で、脱酸素の取り組みをリードすることについても触れています。当社が拠点を置くウルサンにも、サプライヤーや顧客がたくさんいらっしゃいます。地域の仲間と連携し、Bio ANなどの製品を提供することを目指しているのです。

——パーパスやビジョン、ミッションを社内に浸透させるため、具体的にはどのような取り組みをしていますか。

2023年末、社内に向けてパーパス、ビジョン、ミッションを発表しました。「意識変革は身近な取り組みから」との思いから、ESGチームが中心となり、さまざまな取り組みを推進しています。例えば、紙コップやペットボトルの廃棄を減らすため、タンブラーの購入に補助金を支給したり、ESGに関連する書籍を社内のフリースペースに設置したりすることもその一環です。持続可能性について自由に意見を交わす機会を設けるため、経営陣と従業員が対話する「タウンホールミーティング」の実施も計画しています。


ソウルオフィスでのESGチームの活動風景

——EcoVadisの評価受審を決めたきっかけを教えてください。

ABS樹脂等を取り扱う欧州の大手企業をはじめ、複数の顧客から受審の要請がありました。サステナビリティ評価を行う第三者機関は複数ありますが、社内で検討した結果、社内の全部門を網羅する評価を受けられるEcoVadisの評価に魅力を感じました。受審によって自社の現状を知り、今後取り組むべき課題を客観的に把握することができると考えたのです。

——初年度の評価を受審するにあたり、苦労したことはありますか。

EcoVadisの評価項目である「環境」「労働と人権」「倫理」「持続可能な調達」の4分野それぞれ対応する部署が異なるので、情報を集めるのが大変でした。準備はESGチームのメンバーが中心となって進めたのですが、本業と兼務しているメンバーが多く、初めは物理的な負担が大きかったです。各部署の担当を定め、毎月のミーティングで進捗を報告し、体制を整えていきました。

また、部門ごとに社内文書の書式が異なっていたため、EcoVadisの評価に合わせた正式なエビデンスを集めることが求められ、この点も苦労しました。再受審の際には、ESGチーム主導でガイドラインを定め、関連する部署にレクチャーを行って、書式を一元化しました。さらに社内共用サーバーを作り、すべての資料をまとめて管理することで、どの部署の情報にもすぐにアクセスできるようになりました。結果的に社内文書の書式を統一でき、業務の効率化につながったと思います。顧客企業から個別にサステナビリティ関連の監査を求められる機会も多いのですが、EcoVadisの受審結果を提出することで監査に代えられる場合があり、受審してよかったと感じています。

——EcoVadisの評価を受審したことで、社内にはどんな変化があったでしょうか。

評価受審を含む、ESG経営推進に向けた一連の取り組みの中で、サステナビリティに対する社員の意識が変化しつつあると感じています。サステナビリティ関連業務の負担が大きくなることに対し、当初は正直、ネガティブなイメージを抱く社員もいたと思います。地道な努力がEcoVadisでのゴールドメダル獲得という結果に結びついたことで、サステナビリティ推進は会社にとって大きな意義のある業務なのだと、社員が再認識するきっかけになったのではないでしょうか。

製品の品質を支えるウルサン工場のチーム

——社外からの反応はいかがですか。

2023年、最初に受審した際の評価はブロンズメダルでしたが、翌年の2024年にはゴールドメダルを獲得しており、短期間で等級を改善させたことについてお客様も好意的に捉えていただいているようです。また当社の取り組みに共感いただき、連携してサステナビリティを追求していきたいとおっしゃるお客様もおられます。

ESGチームの朴炳奎(パク・ビョンギュ) 氏と同チームを兼務する李在晩氏

——これからサステナビリティ推進に取り組もうと考えている企業へのアドバイスをお願いします。

サステナビリティ推進は、短期間に成し遂げられるものではありません。地道な努力と息の長い取組みが必要になります。ESG経営を「うわべだけの目標」に終わらせないためには、経営層が実現に向けた強い意志を持ち、その考えをパーパスやビジョン、ミッションのような目に見える形にして、組織のメンバーに浸透させていくことも欠かせません。

当社もようやく、未来のための長い旅路に向け、最初の一歩を踏み出したところです。まだアドバイスができる立場ではないですが、時間がかかるものだということを理解し、中長期的な経営計画に組み込みながら、根気と忍耐をもって進んでいくことをおすすめします。

東西石油化学株式会社(TONGSUH PETROCHEMICAL CORPORATION,LTD.

Tongsuh Petrochemical Corporation (tspc.co.kr)

<会社概要>

1969年に韓国で設立された石油化学のメーカーで、従業員数は226名。アクリロニトリル(AN)をはじめ、青化ソーダ(NaCN)やアセトニトリル(MeCN)などの製品をメインに事業を行う。1998年に旭化成の100%子会社となる。グループの技術力とノウハウを活かし、環境負荷の低減や持続可能な社会の実現を進めるほか、グローバルな化学産業の発展に貢献している。

本インタビュー記事の韓国語版はこちら

著者について

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EcoVadisは、世界のビジネスにおいて最も信頼されるサステナビリティ評価の提供をミッションとする会社です。専門知識とエビデンスに基づく独自の評価システムにより、企業とその取引先のサステナビリティパフォーマンスを監視し、改善のための提案を行っています。EcoVadisによる評価は200の業種と175カ国の状況を網羅しており、実用的なスコアカードやベンチマーク、脱炭素に向けたアクションツール、インサイトを通じて、環境的で社会的かつ倫理的な改善を促進します。

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オリエント商事のEcoVadis評価の活かし方
オリエント商事のEcoVadis評価の活かし方

創業75年以上の歴史をもつ老舗商社であるオリエント商事株式会社。建設資材や工業製品、空調ダクトなどを得意とし、大手重工業や自動車メーカー、コンビニチェーンなどの日本での発展に寄与してきました。