
経営企画本部 サステナブル推進室長 島津恭子氏
富士電機E&C株式会社(旧 富士古河E&C株式会社)は、1923年の創業以来、プラント、内線・ 建築、送電、情報通信などの電気設備工事と空調設備工事における幅広い分野の設備設計か ら施工、保守までを手掛ける総合設備企業です。国内のみならず東南アジアでも事業を展開し、 2023年度には売上高が1000億円を突破。着実な成長を続けています。
本記事では、2024年10月25日に開催された「EcoVadis World Tour Japan 2024」で、経営企画本 部 サステナブル推進室長である島津恭子氏と、エコバディス・ジャパンのレーテッド・カスタマー サクセス・アソシエイトである毛利裕子が対談した内容をもとに、ESG経営の実現に向けた取り組 みや、経営層と連携して進める持続可能な成長への挑戦についてご紹介します。
「大幅な遅れ」から出発した、ESG経営への道のり
島津さんは2021年に富士電機E&Cへ転職されたとのことですが、前職と現在の業界で、 どのような違いや課題を感じられましたか?
島津:前職は飲料メーカーで広報やサステナビリティ業務に携わっていました。消費者に身近な 商品を扱う企業として、リサイクル推進や海洋プラスチック問題などの社会課題には、早くから対 応することが求められていたように思います。一方、現職である設備工事業界は消費者へ直接 商品を届ける前職と比較すると、社会の要請が少し捉えにくいと感じました。
そうした状況の中、どのようにサステナビリティへの取り組みを進められたのでしょうか。
島津:入社直後から、社長と複数回にわたってミーティングを行いました。社長からは、同業他社 と比較して当社がどのくらい遅れているのか、客観的に見て当社はどういう状況にあるのかを問 われ、率直に、大幅に遅れていることを伝えました。
社長自身、ESGへの対応の遅れに危機感を感じており、ガバナンスや採用強化のためにも早急 に取り組まなければ、という意識が強かったようです。この話し合いを経て、2年半以内に情報開 示を進め、2025年度までに「ESG経営を実践している」と自信をもって言える状態を目指すという ロードマップを作成しました。入社すぐにこうした話し合いができ、社長合意のうえで目標を設定 ができたことは、取り組みを迅速に進めるうえで大きな推進力になったと感じています。
経営層の理解を深めるためにゲームを活用
そうした危機感を、経営層にどのように伝え、理解を促進されたのでしょうか?
島津:ロードマップに沿って早急な取り組みを進めるには経営層の理解が重要でした。そこで、ま ずは社長への報告と同様に、率直に現状を伝え、そのうえでワークショップを開催。カードゲーム 「2030SDGs」を通して理解を深めたうえで、今後、当社が提供していきたい価値を経営陣とすり 合わせるという作業をやっていきました。
「2030SDGs」は、さまざまな価値観や違う目標を持つ人がいる世界の中でSDGsの17の目標を達 成するための道のりを疑似体験するビジネスゲームで、企業の研修などでも活用されるもので す。このゲームを活用して、社会課題への取り組みの重要性を再認識してもらったことで、より深 い理解を得られたのではないかと思っています。
EcoVadis評価がもたらした変化
2021年にEcoVadisの受審を決めた背景と、初回受審からどのように改善を進められたの かを教えて下さい。
島津:お客様から要請を受けたことが受審のきっかけでした。私は、初回受審の結果が出るタイ ミングで関わることになったのですが、当時は非財務情報が全く開示できておらず、データもそろ わない状況だったので、結果は厳しいものでした。その後、社内全体で結果を共有し、EcoVadis からの指摘や是正ポイントをもとに、サステナブル推進室と担当部門で話し合い、計画的に改善 に取り組んでいます。
受審2年目となる2022年にはブロンズメダルを獲得されています。年々、着々とスコアアッ プを実現したポイントについて教えていただけますか?
島津:労働と人権分野では、自社独自の人権方針を策定し公開したことが評価されました。これ までは親会社である富士電機株式会社の方針を当社の人権方針として採用していましたが、 EcoVadisの受審をきっかけに、自社を主語とした方針を持つ重要性に気づき、策定に至りまし た。これは担当部門の意識の変化も含め、当社にとって大きな一歩になったと考えています。ま た、えるぼし認定や健康経営優良法人認定制度などの外部認証の取得を推進したことも、評価 につながっていると思います。
環境分野では、昨年初めてCO2排出量を公開したことがスコア改善の要因となりました。私たち サステナブル推進室が各部門と連携して評価受審に取り組むことで、これまで社内で「当たり前」 とされていた取り組みを再評価し、外部評価の文脈で活かす視点を持てたことも大きかったと考 えています。
外部評価を受けることの重要性について、どのようにお考えですか?
島津:自己評価ではなく、第三者の評価を受けることには大きな意味があると考えています。そ の理由は3つあります。1つ目は、業界内での自社のポジションを客観的に把握できること。 EcoVadisの評価を受審することで、私たちがどのような位置にいるのかが明確になり、目標が見 えてくると感じています。
2つ目は、取り組みの不足部分や次にやるべき課題が見えること。トレンドを踏まえ、毎年異なる 質問が来るため、それに対応する中で新たなアクションにつながりやすくなります。
3つ目は、外部に向けて取り組みを効果的に発信できることです。統合報告書やウェブサイトで成 果を伝える際、第三者の評価を通じて「どこまで達成しているか」を示すことで、投資家や取引先 からの信頼につながると考えています。
ESG経営の実現に向けたアクション
ESG経営を確立するという目標に向け、今後、どのように進めて行く予定ですか?
島津:まだ道半ばではありますが、2030年度達成を目指して設定したマテリアリティの実現に向 け、社内の委員会や関連部門と協力しながら進めていきたいと思っています。また、価値創造プ ロセスを好循環させ続け、私たちが生み出す価値を最大化する挑戦を続けています。
この目標を達成するためには、チーム全体の取り組みに加え、社員一人ひとりの自発的な行動 が不可欠です。サステナブル推進室では、そのためのバックアップを強化していきたいと考えて います。また、これまでサステナブル推進室が担ってきた社内浸透をリードする役割を、各本部 に移すなど、各部門が主体性を持って取り組んでいく形へとシフトする挑戦も同時に行っていま す。
最後に、まだまだ男性主力の業界の中にいらっしゃると思いますが、CSRやサステナビリ ティ分野に取り組む女性に、ぜひ応援のメッセージをお願いします。
島津:サステナビリティに限らず、企業や社会の発展には、多様な視点や柔軟な発想が必要で す。私たちのような設備工事業界は女性の少ない環境ですが、それぞれの経験や知識から生ま れるアイデアが、新たな価値の創造につながると信じています。成果が見えにくいこともある分野 ですが、ぜひご自身の力を信じて、挑戦し続けていただきたいと思います。
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