旭化成株式会社 サステナビリティ推進部 課長 石中裕里氏
創業100年以上の歴史をもつ総合化学メーカー、旭化成株式会社。「マテリアル」「住宅」「ヘルス ケア」の3つの主要領域を中心に、幅広い社会ニーズに対応し、日本を代表する企業として成長 を続けてきました。2023年度には売上高2兆7849億円を記録し、その半分以上を海外市場が占 めるなど、国内外で確固たる存在感を示しています。
グローバルネットワークを活用して多角的に事業を進展させる同社は、効率的で実行力のあるサ ステナビリティ推進を目指しています。その一環として、2023年にEcoVadisのコーポレートプラン を導入し、グループ全体で具体的な取り組みを開始しました。本記事では、2024年10月25日に 行われたEcoVadis World Tour Japan 2024で、サステナビリティ推進部 課長の石中裕里氏にご 講演いただいた内容をもとに、サプライチェーン全体での持続可能性を追求する同社のアプロー チについてご紹介します。
2つの「持続可能性」を追求する旭化成
旭化成は、社会の変化に対応しながら事業領域を拡大し、成長を遂げてきました。創業当初は 繊維業を主軸に活動していたものの、1970年代に総合化学メーカーへの転換を図り、住宅やエ レクトロニクス、ヘルスケアといった多様な分野への進出を実現しています。さらに、2000年代以 降は海外企業の買収を積極的に進め、グローバル化を加速させてきた点も特筆すべきポイント です。
同社は創業当時から変わらぬ精神として「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献する」という ミッションを掲げています。「このミッションを実現するため、誠実・挑戦・創造という価値観を全従 業員で共有し、『持続可能な社会への貢献』と『持続的な企業価値の向上』という2つの持続可能 性を追求しています」と石中氏。同社はこれらを中核に据え、持続可能な未来を見据えた経営戦 略を展開しています。
旭化成グループの持続可能性への取り組み
同社は、温室効果ガス(GHG)排出量の削減に向けて、2030年までに2013年比で30%以上の 削減、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を明確にしています。この目標を 達成するため、自家発電の低炭素化、購入電力の非化石化、製造プロセスの改善といった具体 的な取り組みを進めています。
特に、カーボンニュートラルの実現に向けては、アルカリ水電解水素製造技術の社会実装、電気 や蒸気のグリーン化やプロセス革新などの新技術の活用を推進する方針です。同社はグリー ン水素市場の創出に向けて、2010年からアルカリ水電解システムの開発に着手しており、現 在は事業化を目指して川崎製造所内のパイロット試験設備等での実証を進めています。将
来的にはこの技術を脱炭素社会の実現に向けた主軸事業として成長させる計画です。また、バ イオエタノールを利用した基礎原料製造の実用化を進めることで、プロセス由来のGHG削減にも 取り組んでいます。
さらに、環境貢献製品の創出や、全社標準版カーボンフットプリント算定システムの構築・活用 を通じてGHG排出量削減に貢献するとともに、サーキュラーエコノミーの促進による資源の効率 的かつ循環的な利用も進めています。
サプライチェーン全体での持続可能性の実現
旭化成は、世界約20カ国に生産、販売、研究開発拠点を展開し、商社や代理店との連携も活用 して、多様な市場ニーズに応えています。同社は、サプライチェーン全体での持続可能性向上を 目指し、人権尊重を重要な課題と位置づけています。2023年からは事業グループごとにリスクマ ネジメントの強化を推進。さらに、CSR調達アンケートの実施や行動規範の改定に加え、物流の 効率化と高度化、共同輸送といった具体的な取り組みを展開中です。
取引先へのCSR調達アンケートでは、単なる評価にとどまらず、説明会やフォローアップを実施。 特に評価が低かった取引先には改善支援を行っています。今後は2024年9月に行ったサプライ ヤー行動規範の改定に伴い、主要取引先に同意確認書への署名を依頼する予定です。
また、物流ではモーダルシフトを推進し、宮崎県からヨーロッパへの陸・海上輸送の一部を、陸 送距離の削減と安定したスペース確保のため、宮崎港発・神戸港経由の欧州向け直行便利用 へ転換することにより、CO2排出量を大幅に削減。輸送時間の短縮やコスト削減、顧客満足度 の向上も実現しています。さらに、「三井化学(株)様との提携を通じ、国内の長距離定期輸送を トラックから船舶に切り替え、海上コンテナの相互利用を進めることで、空コンテナの削減と輸送 効率の向上を達成しました」と石中氏。この取り組みは、CO2排出量削減に加え、2024年問題と される物流課題への対応にも貢献しています。
EcoVadis評価の活用によりグループ全体の透明性が向上
旭化成は2011年にEcoVadis評価の受審を開始し、その後、2019年から取り組みを強化していま す。「本社が回答支援を行い、各事業部が提出書類を準備する体制を整えました。しかし、幅広く 事業を行う当社では各事業が個別に受審しなければならず、その進捗を細かく把握することは 非常に困難でした」と、石中氏は当時の課題を振り返ります。
これらの課題を解決するため、同社では2023年にEcoVadisのコーポレートプランを導入しまし た。「このプランを活用することで、海外の子会社を含めたグループ全体の受審状況をダッシュ ボード上で一元管理できるようになり、効率的で計画的な評価受審が可能になりました」と石中 氏は説明します。同社は今後、コーポレートプランを活用してスコアカードの詳細確認や課題抽 出、是正計画の策定を進める方針です。
EcoVadis評価を活用することで、グループ会社にも従業員意識の変化が見られ始めています。 韓国釜山に拠点を置く旭化成の100%子会社、東西石油化学(株)は、その成功事例のひとつで す。同社は白物家電に使われるABS樹脂やアクリル繊維の原料となるアクリロニトリル(AN)の
主要メーカーで、2022年にはアジアのANメーカーとして初めて、ISCC(International Sustainability & Carbon Certification)PLUS認証を取得。バイオマス原料を用いたANの生産を 開始しています。
同社では顧客の要請を受け、2023年にEcoVadis評価を初受審しました。初年度は情報収集に 奔走したものの、次年度にはESGチームが主導してガイドラインを策定し、関連部署へレク チャーを実施することで、ゴールドメダルを獲得する成果を上げました。「この評価受審を通じて、 従業員がサステナビリティ推進の意義を実感し、意識が大きく変わりました」と石中氏は語りま す。
さらに、顧客企業からの監査要求をEcoVadisの受審結果で代替できるケースもあったといい、「 EcoVadis評価の受審は、当社のサステナビリティ推進において重要な取り組みとなっています」 と、その意義を強調しました。
※東西石油化学の取り組みは、こちらの記事でご紹介しています。
今後に向けた展望と課題
同社は今後3年間にわたり、EcoVadisコーポレートプランを活用してグループで継続受審を進め る方針です。「従業員にサステナビリティの重要性を広く周知するきっかけとしてもEcoVadisを活 用し、グローバルレベルでのサステナビリティ実践も目指したい」と石中氏は意気込みを語りま す。
同時に、環境、労働、人権、倫理、調達といった多岐にわたる分野をバランスよく進めることが課 題だと説明し、「具体的な問題を抽出し、見える化とモニタリングを通じて社会やお客様のニーズ に応えていく必要があります」と、慎重かつ計画的な取り組みの必要性を強調しました。
今後、同社は実効性のあるサステナビリティの実現に向けてDXやITの活用を進める方針です。 また、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)やCSDDD(企業サステナビリティ・デューデリジェンス 指令)といった新たな枠組みの動向を注視し、国や団体、国際的なイニシアティブ等への積極的 な参画を通じて多様な課題に柔軟に対応していくとしています。
石中氏は講演の最後に、「サプライチェーン全体での実効性あるサステナビリティの実践は、持 続可能な社会への貢献に不可欠です」と述べ、関係者とともに地道に取り組みを進める決意を 示しました。
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