化学系専門商社であり、溶剤、樹脂、顔料、シリコーンなどの国内販売や貿易取引を手がける三菱商事ケミカル株式会社。親会社である三菱商事から分離独立し、1987年に設立されました。同社が取扱う化学製品は、基礎化学品から誘導品と多岐に亘り、厳格な法規制管理を要する製品もあれば、一般的な物流会社では輸送困難な危険物があります。そこで同社は、全商品の法規制管理を行うとともに外航・内航・油槽所・陸運・通関という全てを網羅する豊富な国内外のネットワークと化学物流に関しての経験・ノウハウに加えて三菱商事グループのグローバルなネットワークを活用し事業拡大をしてきました。
三菱商事ケミカルが初めてEcoVadisの評価を受審したのは2017年。以降の5年間で、スコアにして20点以上の大幅な改善を成し遂げ、2022年にブロンズメダルを獲得しています。全社員を巻き込んだサステナビリティへの取り組みについて、トレードコンプライアンス・サステナビリティグループ長の太上二郎氏にお話をうかがいました。
——貴社におけるサステナビリティへの取り組みについて教えてください。
取組みを開始したのは2007年に遡ります。取引先から環境マネジメントシステムに関する国際規格であるISO14001の取得を求められたことがきっかけでした。
限られた社員だけでなく、全社員が参加して取り組むという指針に基づき、環境負荷を軽減するためのテーマを定め、各本部の推進担当者を中心に全社員で推進しました。
全社員が当事者になるため、内部監査や審査の時期などは特に大変です。一般的には内部監査や審査に対応する社員は数名程度だと思いますが、我々ではそれぞれのテーマ担当者が取組みテーマとその成果についてプレゼンをするため全社一丸となって対応しています。
2020年からSDGs経営のためにESGやサステナビリティ推進に関する本格的なスタディを始めました。全員参加の指針のもと、全ての部署よりタスクフォースメンバーを選出し、企業目標の中核となる5つのマテリアリティと、マテリアリティ実現に向けたアクションプランを定め全ての部署が取組んでおります。
全ての部署がアクションプランを掲げ、サステナビリティ推進を図っているのは珍しいのではないかと思うときもあります。他方で、サステナビリティは後戻りすることのない不可逆の潮流であることに疑いは無く、経営戦略のあらゆる側面に組み込んでいくことが重要です。
そこで、一つ目の施策として、従来の環境方針に社会課題への取組み姿勢もプラスした「サステナビリティ基本方針」を新たに企業理念として掲げ、我々として「社会の課題にいかに向き合うか」を明確にしました。
二つ目の施策としては、サステナビリティの最高責任者であるチーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)を代表取締役社長が兼任するとともに、各本部の責任者である執行役員も参画するサステナビリティ委員会を設置し、全社一体となったサステナビリティに係る方針や戦略を議論しております。重要なのは、代表取締役がCSOを直接兼任するということです。自ら変革を指揮し、ステークホルダーからの要求に適切に対応するのは経営トップが兼任するCSOをおいて他にないという考えに基づくものです。
——サステナビリティに関して、業界を牽引してこられたことが伝わってきます。EcoVadisの評価受審を決めたきっかけは、どんなことだったのでしょう。
2017年、欧州系の大手化学品メーカーと取引を開始するにあたり、EcoVadisの評価受審が必須条件だと知らされました。営業担当から話を聞き、我々も初めてEcoVadisの存在を知りました。ISO14001を取得した頃に比べると、設問の内容もより幅広く、領域も多岐にわたっていたため、時代の急速な変化を実感しました。
EcoVadisの評価を受審する以前も、取引先からの要請でサステナビリティやCSRに関連する調査には対応していましたが、自社のサステナビリティに関する自己評価は行っていませんでした。そのため、多岐にわたる質問に回答することは非常に難しい作業でした。社内の指針や、既に行っている取り組みなどを十分に把握する時間を確保できず、初回の受審では取引先が求める基準点を満たすことができませんでした。
そこで、既に行っていた取り組み、不足している点を洗い出す作業から始めました。企業理念を踏まえた行動指針や、役職員の行動規範は既に定められており、前述のISO14001に向けた取り組みや、CSR活動もあらためて整理しました。新たなエビデンスをそろえて提出した結果、2度目の受審では、スコアが向上し、取引先が求める基準点を満たすことができ、取引開始につなげることができました。
ここ数年は、日本を代表する大手化学品メーカー、大手製薬会社等、グローバルに展開する企業などから、EcoVadisのスコアカードの共有依頼が増えており、社会意識に対する時代の変化を実感しています。また、2022年の受審ではブロンズメダルを獲得することができ、「サステナビリティ活動を推進してきてよかった」と喜びを共有しました。
——EcoVadisの評価を受審したことで、具体的なメリットはありましたか。
我々がEcoVadisの評価を受審していることは、親会社である三菱商事のサステナビリティレポートや、ホームページにも掲載されています。グローバルな存在感があり、信用力の高いEcoVadisの評価を公開することは、三菱商事グループとしてもメリットが大きいと考えています。
スコアカードの共有だけでなく、当社には日々取引先から、サステナビリティや温室効果ガス削減に関連する調査やアンケートの依頼が届きます。その質問項目の中には、「EcoVadisの評価を受審していますか?」という設問を見かける機会も増え、得点の向上にもつながり「受審してよかった」と感じています。
——これからサステナビリティ推進に取り組みたいと考えている企業へのアドバイスをお願いします。
目下の課題はやはり「気候変動への対応」だと思います。とりわけTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みによる対応、そして「Scope3」開示の対応と考えます。我々においては、Scope3の算定シナリオを構築し、2020年以降の排出量算定が完了しております。気候変動やカーボンニュートラルに向けた取組みとして、非財務情報の開示が加速され、ますます株式市場における競争要因となり得るでしょう。一方、カーボンニュートラルは1企業だけの課題ではなく、サプライチェーンで連携する必要があるため、気付いた時にはサプライチェーン上で対応が遅れている状況となることも懸念されます。そうならないためにも、各企業が着実に取組み、サステナブルサプライチェーン実現に向けて踏み出していくことが重要だと考えます。
※同社では2023年にISCC認証(国際持続可能性カーボン認証)を取得したほか、2024年には「持続可能なサプライチェーン行動ガイドライン」を制定した。
——最後に、サステナビリティ推進について貴社の展望をお聞かせください。
我々が提供する化学品は原料であり、上流の基礎化学品から下流の最終製品に行き着くまでのサプライチェーンは複雑な経路を辿ります。それは主産物の製造過程で生産された副産物が枝葉のように分かれるのと同じです。それだけ複雑だからこそ、我々商社として、進化する技術と伝達すべき情報があります。そして、何よりも安心感や信頼こそを取引先に提供しなければいけない価値だと思います。企業理念である三綱領の一つである「所期奉公」は「事業を通じ、物心共に豊かな社会の実現に努力すると同時に、かけがえのない地球環境の維持にも貢献する」というものであり、我々の目指すべきものは古より今に至るまで変わりはありません。近年は世界的な潮流により、そこにカーボンニュートラルという重大テーマが加わり、カーボンニュートラルは社会全体の使命となっています。社会から三菱商事ケミカルが関与しているサプライチェーンは安心で信頼できると思っていただけるように、これからもサステナブルサプライチェーン実現に向けて全力で邁進して参ります。
著者について
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