堺化学工業株式会社
執行役員・管理本部長 小菅 英 様
1918年、大阪・堺で創業した堺化学工業株式会社。当時の日本では、白粉(おしろい)に含まれる酸化鉛による中毒が広がっていました。創業者の田中銀次郎は、鉛の代替品として国産の酸化亜鉛の製造に成功し、化粧品材料として販売を事業をスタートします。以来、白色顔料のもとになる酸化チタンや医療用バリウム、触媒製品から電子材料まで、多岐にわたる化学製品を製造・販売し、100年以上にわたり業界をリードしてきました。
堺化学工業では、2020年からEcoVadisの評価を受審。堺事業所と福島県の小名浜事業所の2拠点で、初年度から、上位5%程度の企業が対象となるゴールドメダルを獲得しています(直近の2023年度は堺事業所がシルバー、小名浜事業所はゴールド)。同社がどんな思いでサステナビリティを推進してきたのか、執行役員・管理本部長の小菅 英氏にインタビューしました。
——貴社におけるサステナビリティへの取り組みについて教えてください。
化学製品の開発・製造を手がけていることもあり、環境・安全・健康の確保は必須のこととして継続的に取り組んできました。日本化学工業協会の下部組織であるレスポンシブル・ケア委員会に所属し、ISO14001に基づく環境マネジメントシステム(EMS)の構築も推進しています。
また、サステナビリティ、SDGsに対する世界的な関心の高まりを受け、優先的に取り組むべきマテリアリティ(重要課題)を定めました。「人々を幸せにする」「地球環境を守る」「ものづくりで社会課題を解決する」「透明で強固な経営体制を築く」という4つのテーマです。
マテリアリティ実現のため、2021年9月、社内にサステナビリティ委員会を設置しました。各項目に対してKPIを設置し、全社で取り組んでいます。社長や取締役、執行役員をはじめ、さまざまな分野の責任者が集まる会合で結果を共有し、議論を行います。活動の成果は毎年報告書の形でまとめ、公表してきました。
——EcoVadisの評価受審を決めたきっかけは、どんなことだったのでしょう。
欧米系の光学製品メーカーと取引を始めるにあたり、EcoVadisの評価受審を依頼されました。サステナビリティに関して深い知見を持つ企業からでしたので、「グローバル基準で信頼の高い評価なのだろう」と感じ、受審を決めたのです。
評価を受審するには、EcoVadisから投げかけられるさまざまな問いに答えるため、現場の事業活動を細部まで把握しなければなりません。関連する部署に依頼し、具体的なデータを揃えてもらう必要があります。
第一線の現場では、外部の評価を導入する以前から、事故を起こさず安定的な生産を続けることを最優先に日々の業務を行っています。そこで管理部門としては、第三者の評価を受審し結果を発信することの意義を、現場に伝えることから始めました。総務課のメンバーが何度も現場に足を運んで信頼関係を構築しつつ、サステナビリティへの理解を深めてもらいました。
(大阪府堺市に拠点のある、本社及び堺事業所)
——2021年度、2022年度は堺事業所、小名浜事業所ともにゴールド、2023年度は堺事業所がシルバー、小名浜事業所はゴールドと、非常に高い評価を受けています。
初めての受審でこのような評価をいただき、われわれが日々取り組んできたことは間違っていなかったと、あらためて証明されたように感じています。2023年度、堺事業所のメダルの色はシルバーとなりましたが、スコアの内訳に変動はなく、取り組みの質は維持できていると考えています。
EcoVadisのスコアを獲得することを目的に、社内の取り組みを改善するというのは本末転倒ですが、これまで積み重ねてきた努力が外部機関から一定の評価を得たことについては、現場で働く皆さんにも自信を持っていただきたいと思っています。
対外的にも、EcoVadisの評価は、当社が誠実にサステナビリティに取り組んでいることを発信する根拠のひとつになっています。また、当社とのお取引を検討されている企業様から、EcoVadisのプラットフォームを通じて、当社の詳細なスコアを知りたいという共有依頼も増えています。中には、世界有数の化粧品会社からのお問い合わせもあり、特に欧米では、サプライチェーン全体のサステナビリティに対する意識が高まっていることを肌で感じます。EcoVadisの評価受審は、当社のような素材メーカーにとって、営業のみならずIRの文脈でも意義があるのではという期待があります。
(2021年3月に設立されたカーボンニュートラルLNG<CNL>バイヤーズアライアンス<メンバーの証>)
——貴社が高いレベルでサステナビリティを実現できていることには、何か理由があるのでしょうか。
当社のEcoVadisの評価を知った競合他社から「どうやって実現したの?」と聞かれることもあるのですが、当社としては本当に、高いスコアを取るために特別なことをしようという意識がないのです。ありのままの取り組みをさらけ出したら、結果としてこのような評価をいただいたという感覚です。これからも、審査機関から高評価を受けるためだけに業務の進め方を変えるつもりはありません。
ただ、EcoVadisの設問項目は、社会の動向に合わせ年々アップデートされていきます。それらの質問に答える中で、今、サステナビリティの領域ではどんなことが注目されており、企業に何が求められるのか、世の中と「目線」を合わせることができると考えています。受審の結果、課題が見つかれば、社内で議論して改善していくきっかけにもなります。CO2排出量の削減をはじめ、取り組むべき課題に終わりはなく、今後も質を落とさず活動を維持していくつもりです。
(PPAモデルによる太陽光発電設備を導入した、小名浜事業所大剣工場)
——「環境」「倫理」「人権と労働」「持続可能な調達」など、サステナビリティの中でも今後特に注力していこうと考えている分野はありますか。
最近、社内のサステナビリティ委員会の下部組織として、人権部会を設けました。サプライヤーとして、「人権デューデリジェンス(企業活動が人権に及ぼす影響を理解し、管理する)」は非常に重要だと考えています。
業界にかかわらず、企業にとって重要なのはやはり「人」です。どんなにIT技術が進化し、AIによって業務が自動化されても、人を大切にしない会社は成長しないでしょう。企業で働く人、企業活動にかかわる人を守ってこそ、働く意欲が湧き、それが結果的に事業成長へのドライバーになるはずです。
サステナビリティの考え方が広がる何十年も前から、私たちは化学メーカーとして、労働安全衛生活動に取り組んできました。従業員が健康で、安全に働き、笑顔で家庭に帰ることができる。そんな環境の実現が、企業活動の大前提ではないでしょうか。
——これからサステナビリティ推進に取り組みたいと考えている企業へのアドバイスをお願いします。
EcoVadisの評価受審はひとつの施策になりますが、先ほどもお話ししたように、高いスコアを獲得することが本来の目的ではありません。まずは日々の活動をきっちり、誠実に続けていく。その延長線上に評価結果があるのではないかと、私は考えています。
「サステナビリティ推進」と聞くと、どうしても大上段に構えてしまうかもしれませんが、これまで続けてきたことを大切に、地道に進めていけばいいのだと思います。目の前の課題をひとつずつ解決しながら着実に歩んでいく、サステナビリティへの取り組みは山登りのようなものです。自社の現状を知り、時代に合った対応をするための道標として、これからもEcoVadisの評価を継続的に活用していくつもりです。
著者について
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