企業事例 - 小野包装がサステナビリティ経営に取り組む意義

「いつか」ではなく今。従業員数170人の小野包装が
サステナビリティ経営に取り組む意義

株式会社小野包装
代表取締役 小野一佳 様

東京・埼玉・茨城に7つの倉庫拠点を構え、総合物流サービス業を手がける株式会社小野包装。1969年の創業以来、顧客のニーズに合わせて「医薬部外品製造業許可」や「品質マネジメントシステム(QMS)認証 JIS Q 9001」、「情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)認証 JIS Q 27001」などを取得し、その期待に応えることでサプライヤーとしての地位を強固なものにしてきました。

2022年にEcoVadisの評価を受審したのも、きっかけは顧客企業からの要請でした。というのも、従業員約170人の中小企業である同社にとって、サステナビリティへの取り組みは「将来的に取り組むべきだろうこと」という位置づけだったのです。しかし実際に取り組みを始めてみると、従業員や協力企業にとっても大きな意味のあるものであり、他社に先駆けて取り組むことにこそ価値があると考えるようになったといいます。

ブロンズメダルを取得し、さらなるスコアアップを目指して取り組みを進める小野包装の代表取締役・小野一佳さんに、サステナビリティ推進に人員を割けない中小企業がEcoVadisの評価を受審する際の心構えについて伺いました。

——EcoVadisの評価を受審されたのは、顧客企業からの要請ということでしたね。

主要な取引先のひとつである、外資系で医療・ヘルスケア分野大手の取引先から、第三者機関のサステナビリティ評価を受けるよう要請されたことがきっかけです。予期せぬタイミングでメールの連絡があり驚きましたが、そうした要請は、サプライヤーとしての力量を一定程度、認めていただいていることの証拠ともいえます。また、顧客からの要請を受けて課題を解決していくことは、サプライヤーとしての当社の価値を高めるうえでも重要なことであるため、EcoVadisの評価の受審を決めました。

正直なところそれまでは、サステナビリティへの取り組みは必要なのだろうとは思いながらも、注力はできていませんでした。しかし、取引先の取り組みをみてみると、サプライチェーン用にサステナビリティに関する教育のためのWebサイトが開設されており、各企業の実際の取り組みなどが紹介されていました。カーボンニュートラルについても、何年までに何を達成するという具体的な数値目標が設定されていて、「これは形だけではない。社を挙げての本気の取り組みだ」という印象を受けたのです。

当社が手がける物流サービスでは、配送のために必要なデータを得意先との間で共有しています。サステナビリティに関しても、それと同様に、当社のCO2排出量などのデータを得意先と即時に共有し、それが年度ごとに減少していく推移を見える化するといった方向性が求められているのだろうと思いました。そう考えると、今から速やかに進めていく必要があり、前向きに取り組んでいます。

——2022年にEcoVadisのブロンズメダル、2023年にシルバーメダルを獲得されています。受審してよかったことは、「取引先からの信頼獲得」でしょうか。

もちろんそれが大きなメリットですが、それだけではありません。当社の場合、創業以来50年以上お取り引きのある企業をはじめ、30年以上、20年以上といった長いお付き合いのお客様が多く、継続してお仕事をいただけているところが強みといえます。

比較的新しい取引先の企業も、お付き合いのあった会社から転職された方からのご紹介で受注となったケースが複数あります。ただ、特にグローバル企業の場合、単なる個人の推薦で発注いただけるものではありません。そうした際に、EcoVadisの評価でブロンズメダルを獲得していることは、当社を選んでいただく大きな説得材料になります。

新たな取引先を開拓しようという際も同様です。当社のようなネームバリューがあるわけではない中小企業が直接、営業に行き、「ぜひお願いします」と言っても難しいわけですが、第三者機関のサステナビリティ評価を受けていることで、受注できる可能性が高まります。

特に近年はコストが安いから、ある程度の品質が確保できるからといった理由で採用するのではなく、「なぜ小野包装を選んでいるのか」を社内はもちろん、得意先や協力会社にも説明できるくらいの証明がなければ選ばれないと感じています。EcoVadisをはじめとした世界的な基準で評価されることは、中小企業がグローバル企業や大手企業に協力会社として認められるために、もはや必要な条件といえると思います。

——取引先のサステナビリティに関する要求は高まっているとお感じですか。

取引先のニーズは当然ながら時代とともに変化します。これまでも、情報セキュリティの強化やコスト削減などのニーズに応えてきました。また、働き手が十分に確保できない時代に突入し、働き方改革やダイバーシティ&インクルージョンといった働きやすい環境づくりにも注力してきました。特に物流業界では、2017年に「宅配クライシス」が起こり、協力会社である宅配業者から、「これ以上、荷物が受けられない」という通達が届いたわけです。

以前は、得意先にばかり目を向け、協力会社にはそのリクエストを飲んでもらうことしか頭にありませんでした。しかし、これからは協力会社からも選ばれる企業になっていかなければ、事業が継続できないということを身にしみて感じました。そういう意味では、サステナビリティ経営、つまり持続可能性への取り組みというのは、得意先のみならず従業員、協力会社それぞれの満足度向上に貢献するものだと今では思っています。

特にEcoVadisの評価には、環境だけではなく、社会、倫理の目標、ポリシー、義務などについての適合性も含まれます※。これは得意先、従業員、協力会社という当社の主要なステークホルダーのニーズや期待に一致するものです。以前は私自身、サステナビリティがどこか身近な言葉と思えず、大企業あるいは重工業や化学メーカなど、社会や環境により大きな責任をもつ企業に求められる話として受け止めていたところがありました。今ではその意義が理解できたことで、周囲の人たちにも説得力をもって取り組みの重要性を伝えることができるようになっています。

※EcoVadisでは環境、倫理、人権と労働、持続可能な調達の4つのテーマで評価します

——Ecovadisの評価を受審された際に、苦労されたのはどのようなことですか。

まず大企業と違い、人員を割けないという問題がありました。その点について、当社では同時期に「環境マネジメントシステム(EMS)認証 ISO14001」の取得を目指していましたので、その担当者がEcovadis評価の担当も兼ねることとしました。

ISO規格のマネジメントシステムを構築する際は、PDCAサイクル(計画→実行→確認→改善)を回して、継続的な改善に取り組みます。このプロセスにサスティナビリティへの取り組みを含めることにしたのです。これにより、従業員に大きな負荷を強いることなく、従業員がすでに理解しているプロセスで取り組める体制を整えました。

一方で、取り組みを始めても、サスティナビリティ関連の用語を知らないため興味がもてない、それゆえに勉強会を開催しても人が集まらないという問題が発生しました。その点は、環境的な用語を覚えてもらうというアプローチではなく、背景にある社会課題や企業のガバナンスなどの知識がなければ関心をもちにくいと考えました。

そこで当社では、サステナビリティ推進の前提となる企業経営や社会的責任についての従業員の知識を底上げするために、「ITパスポート試験」の取得を従業員に勧めました。ITパスポート試験というのは、IT技術者を目指すうえで最初に取得すべき国家試験なのですが、出題範囲にIT技術や管理のほか、財務や法務、経営戦略なども含まれ、一般社会人が理解しておくべき内容となっているのです。この「ITパスポート試験」を取得することのメリットを毎週の会議で周知し、合格者には社長賞の授与というインセンティブをつけました。

さらに、運用メンバーに総務部を加え、Ecovadis評価のテーマのうち「倫理」や「労働と人権」に関する知識をもつ要員を増強しました。当社の場合は特に、総務部長が率先して取り組んでくれていることがスコアアップの要因になっていると感じています。

——スコアカードで各項目の評価が数値化されますが、どのように生かされていますか。

スコアカードには、当社が苦手としている点と、今後伸ばしていくべき点が明確になるというメリットがあります。当社は温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)排出が課題であることがわかり、取り組みを強化しているところです。

また別の観点で言えば、質問票の設問を前年のものと見比べた時に、若干の変更点があることがわかります。その変更点こそが世界のトレンドであり、今後われわれが注力していくべき内容なのだろうと受け止めています。

——今後予定されている取り組みについてお聞かせください。

冒頭でお伝えした通り、現状を数値化し、その数値を分析して、改善のための計画を立てること、それを表明して取り組みの結果を公表していくことが重要だと考えています。将来的には、自社のみならず各取引先のGHG排出量の削減についても見える化していく必要があるでしょう。そのためのシステムを構築しているところですが、実現のためには設備投資が必要になります。

サステナビリティ推進の取り組みには、補助金の申請が可能であったり、サステナビリティ・リンク・ローンの適用となったりと資金調達の幅が広がります。当社のような中小企業であっても、サスティナビリティ経営の高度化や脱炭素への取り組みを加速できる資金面での可能性も感じています。

——これからサステナビリティ推進に取り組みたいと考えている企業に、アドバイスがありましたらお願いします。

日本は、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。サステナビリティ推進は、企業として長期的に向き合っていかなければならない課題であることは間違いありません。次世代の経営者やマネジメント層にも継承していかなければならない取り組みです。なるべく早い段階から取りかかることで、理解を深め、確実に進めていくための時間と知識を得ることができます。中小企業であっても、ISOの担当者が兼任したり、「ITパスポート試験」を活用したりすることで、大きな負荷をかけずに取り組むことは可能です。

特に、当社が行っているようなトラック輸送は、GHG排出の観点から悪であると思われかねない業種です。しかし、現状ではこれに代わる方法はなく、抜本的な解決策はありません。大企業が技術革新で解決できるものではない課題は、中小企業の地道な取り組みにこそチャンスがあると考えています。GHG排出削減を少しずつでも達成していけば、選ばれる企業になっていくはずです。

サステナビリティに関する取り組みの成果は、当社にとって得意先一社に限ったものではありません。サステナビリティ経営を進める機会を与えていただいた得意先に感謝しています。

著者について

‏‏JA‎ E‏‏‏‏coVadis ‏‏JA‎

EcoVadisは、世界のビジネスにおいて最も信頼されるサステナビリティ評価の提供をミッションとする会社です。専門知識とエビデンスに基づく独自の評価システムにより、企業とその取引先のサステナビリティパフォーマンスを監視し、改善のための提案を行っています。EcoVadisによる評価は200の業種と175カ国の状況を網羅しており、実用的なスコアカードやベンチマーク、脱炭素に向けたアクションツール、インサイトを通じて、環境的で社会的かつ倫理的な改善を促進します。

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