サステナビリティパフォーマンスがビジネスの成功を測る中核的な指標や手段として急速に普及し、世界中のほぼすべての業種と国に影響を与えています。日本も例外ではありません。規制当局、報告機関、金融関係者、活動家、消費者が、サステナビリティをめぐる透明性の向上を企業に求めており、その圧力は高まっています。企業にとって、国境を超えて比較可能なビジネスサステナビリティ指標を活用して、国内外のどちらでもバリューチェーンのパフォーマンスを把握、管理、改善することがこれほど必要になったことは、かつてありません。
EcoVadisは、フランス政府の企業関係調停者(Business Relations Mediator)であるLe Médiateur des entreprisesと提携して、Measuring the Sustainability Performance of European Companies 2021を発表しました。これは、欧州、OECD、BRICSの各国でEcoVadisのネットワークに参加している企業が2015年から2020年の6年間にサステナビリティの分野でどんな進歩を遂げてきたのか、詳細に調査してまとめたものです。本ブログでは、このレポートから見えてきた主な傾向のいくつかを詳しく検討し、日本企業のパフォーマンスの現状を、EUやOECDの企業と比較しながら浮かび上がらせていきます。
Measuring the Sustainability Performance of European Companies では、EcoVadisが2015年から2020年にかけて約5万社を対象に実施した9万件以上のサステナビリティ評価を分析しました。これらの企業は、地域、業種、そして企業規模の点で多種多様であり、評価が行われた回数もさまざまです。各企業はまず、「環境」、「労働と人権」、「倫理」、「持続可能な資材調達」という4つのコア評価テーマでのパフォーマンスに基づき、0~100のスケールで採点されました。次に、サステナビリティマネジメントシステムの成熟度に応じて、「模範的(exemplary)」(65以上)、「確立(good)」(45~64)、「部分的(partial)」(25~44)、「不十分(insufficient)」(25未満)の4つのカテゴリーのいずれかに分類されました。
2020年の世界全体でのサステナビリティパフォーマンス
2020年、全世界の企業のうち、「模範的」レベルのサステナビリティマネジメントを達成した企業は7.8%で、過半数(52.2%)は「確立」カテゴリーに分類されました。また、36.7%のマネジメントレベルが「部分的」、3.3%が「不十分」でした。これは、倫理面、社会面、環境面で高いリスクを抱えていることを示しています。
2020年の評価では、OECD加盟国に拠点を置く企業平均スコアは51で、EU加盟国に拠点を置く企業の平均スコアと比べて1.5ポイント低いものの、世界平均より3.3ポイント、BRICS平均より12.7ポイント高いという結果になりました。EUから離脱した英国のスコアは53.9で、OECD諸国を上回っています。北米の企業は、2019年に引き続いてさらなる伸びを見せ、2020年のスコアは46.5となり、欧州企業の平均スコアに近づきました。
日本企業の2020年の平均スコアは46.7で、北米や、チェコ共和国(47.5)など一部のEU諸国と同水準でした。とはいえ、フィンランド(55.9)、スウェーデン(55.4)、フランス(54.3)など、サステナビリティ分野で世界をリードする国々にはまだ遠く及びません。
EcoVadisによる評価スコアの国/地域別傾向:2015年~2020年
環境分野における日本企業のパフォーマンスは良好、原動力は中小企業
2020年、日本企業は「環境」のテーマで良好なパフォーマンスを示し、OECD諸国の平均スコアをわずかに上回って、EU平均まで2ポイント差に迫りました。しかしながら、この6年間、このテーマにおける進展の原動力となってきたのは、主に従業員数1,000人未満の中小企業でした。環境分野における日本の大企業のスコアは依然として中小企業を上回っているとはいえ、2015年に55.1だった平均スコアは、2020年には53.7に低下しています。一方で、中小企業は着実な成長を見せており、2015年に45.5だったスコアを2020年には51.2に伸ばしました。
このテーマで日本企業のパフォーマンスが比較的好調である理由の1つは、温室効果ガス排出量の報告に関する国の規制の枠組みがしっかりと確立されていることです。日本では、1997年の京都議定書で設定された目標に取り組むため、1998年に地球温暖化対策の推進に関する法律が施行されました。この法律では、「事業活動に伴って相当程度の温室効果ガスを排出する」企業は、会計年度ごとに、その排出量を地域の事業所管大臣に報告することが義務付けられています。次の2つの条件のいずれかを満たす企業には、排出量を報告する義務があります。1) 全事業所での原油換算エネルギー消費量が1,500キロリットル以上、または2) 全事業所での温室効果ガス排出量が3,000 tCO2e以上であり、かつ常時使用する従業員の数が21人以上。対象となる従業員数のしきい値が比較的低いため、多くの中小企業が同法の適用範囲に入ります。同法に従い、2018年には13,464社が排出量を報告し、報告された排出量は合計で669億tCO2eに上りました。EcoVadisの評価では、報告のための仕組みの有無が考慮されます。そのため、温室効果ガス排出量の報告がすでに法律で義務付けられている日本企業は、「環境」テーマにおいて他国を上回るパフォーマンスを示す傾向があります。
日本企業の環境面でのパフォーマンスが比較的良好である一因として、1960年代から1970年代以降、政府が策定する環境汚染に関する規制がますます厳しくなっていることが挙げられます。これらの規制は、日本の戦後の高度経済成長に伴って多発した公害への対策として導入されました。国によるこうした取り組みの結果、大企業と中小企業の双方が幅広い環境問題に取り組まざるを得なくなり、最終的に、GDP 1ドルあたりの排出量で測る汚染強度については、日本がOECD諸国の中で最も低い水準となりました。日本政府の方針と規制が、「環境」テーマにおける日本企業のパフォーマンスに好影響を及ぼしていることは明白です。しかし、大企業のスコアが近いうちに2015年のベースラインを上回るようにするには、さらに多くの取り組みが必要であることもまた明白な事実です。
労働と人権への取り組みの加速が必要
しかしながら、「労働と人権」テーマに関する日本企業の平均的なパフォーマンスは、多くのOECD諸国の企業に後れを取っています。このテーマにおける日本企業の平均スコアはOECD平均(54)を7ポイント下回っており、改善の余地が大きいことがわかります。これは、日本企業の多くが十分に認識している事実です。2019年にPwCが日本企業を対象に行った調査によると、サステナビリティに関連するどの問題に優先的に取り組みたいか、という質問に対して寄せられた回答の2 つは、「労働条件の改善」と「経営陣の多様化」でした。
日本企業には、長い年月にわたって部落民差別という人権上の課題に直面してきたという歴史があります。「部落に住む人々」と訳される部落民という言葉は、封建制時代の日本において、「不浄」とみなされる職業や死に関連した職業に従事していた、処刑人、肉屋、葬儀屋などの労働者のコミュニティを指します。このような人々は、封建社会における身分制度の最下層に置かれていました。この制度は1871年に日本の近代化推進の一環として廃止されましたが、部落出身者はその後もさまざまな場面で差別されています。1970年代半ば、多くの大手日本企業が応募者を選別するために、部落の地名と住所を示す「ブラックリスト」を使っていたことが判明しました。その後、部落擁護団体などの人権団体の活動により、こうした差別的な雇用慣行は廃止されました。また、2016年には、部落差別を禁止する法律が施行されました。しかし、これらのコミュニティに属する人たちは日本社会において、今でも障壁に直面しています。そうした障壁は企業文化の中で年々減少してはいるものの、完全に消滅したわけではありません。
日本には、より現代的な人権・労働問題として、職場でのハラスメント、特に女性に対するセクシャルハラスメントと差別などが存在します。日本社会では、多くの女性がこの種の障壁に直面しています。このことは、2021年のGlobal Gender Gap Reportにおいて、日本が156か国中120位という散々な結果となり、G7内では最下位であったことからも明らかです。この傾向は労働分野でも見られます。女性の収入は平均して男性の74%に留まり、高収入の職業に就いている女性は少ないのが現状です。大きな要因となっているのは、性差別です。出産や育児が仕事に与える影響についてさまざまな誤解があるため、女性は男性よりも管理職や高度な専門職に向いていないと見られがちです。日本企業がこの問題に効果的に対処するには、固定観念の解消に取り組み、これまでよりも多くの女性を上級職に登用し、子どもをはじめとする家族の世話をする従業員の労働条件を改善することが必要です。実際に、すでに多くの日本企業が、これらの問題を優先的に改善すべき分野と認識していますので、重要な第一歩はすでに踏み出された状態と言うことができます。
日本企業のスコアの推移:2015年~2020年
EcoVadisの評価件数は近年着実に増加しています。そのため、2015年に評価を行った際に特に意欲的だった企業2,342社のサステナビリティパフォーマンスを、世界中から収集した2020年の最新のデータセットに基づいて調査しました。日本では、2020年に500社以上が評価を受けましたが、そのうち68社は2015年にも評価を受けています。下のグラフは、これら68社が2015年から2020年までの6年間に取り組んだサステナビリティパフォーマンスの推移を示しています。
2015年および2020年に評価を受けた世界の企業のサステナビリティパフォーマンス評価
上記のサンキーグラフは、世界中の大多数の企業のサステナビリティパフォーマンスが改善していることを示しています。サステナビリティ推進企業(「模範的」レベルの企業)が全体に占める割合は、2020年までに6%から19%に上昇しました。新たに高いパフォーマンスを示した企業の大半は、2015年時点の評価が「確立」レベルだった企業ですが、一部の企業は2015年時点の評価が「部分的」レベルであり、数年間で著しい進歩を遂げたことがわかります。この改善傾向は、2015年に「部分的」の評価を受けた世界の企業と日本企業の双方に当てはまり、50%以上が2020年には「確立」レベルまで改善されています。
世界中から収集したはるかに大規模なデータセットの中からは、興味深い例外もいくつか見つかりました。たとえば、「不十分」と評価されたマネジメントシステムが、2020年までに「模範的」へと改善された企業も、少数ながら存在します。一方で、日本企業のうち、2015年に「確立」レベルと評価されたのに、2020年には「部分的」へと格下げされた企業が全体の13%に上りました。これは、少なくない数であり、注目に値します。世界平均では、格下げになった企業が占める割合は9%でした。要因としては、時代遅れの報告方法や手段、認証の有効期限切れ、罰金、有罪判決、争訟など、企業のスコアにマイナスの影響を与える可能性のあるさまざまな理由が考えられます。世界全体の結果について詳しくは、こちら をご覧ください。
2015年および2020年に評価を受けた日本企業のサステナビリティパフォーマンス評価
2回以上の評価を受けたすべての日本企業が、現在では少なくとも「部分的」のカテゴリーに移行しています。最高のパフォーマンスとはいえないものの、幅広いサステナビリティの課題に対して一定の進展を見せていることがわかります。「模範的」カテゴリーの企業の割合は、2015年のわずか2%から、2020年には15%へと伸びており、今後もさらなる伸びが期待できます。これに対して、世界をリードするフィンランドでは、2020年に40%の企業が「模範的」レベルを達成しています。
新たに高いサステナビリティパフォーマンスを示したこれらの企業はすべて、2015年に「確立」の評価を受けた企業であり、年を追って目に見える進歩を遂げてきたことは明らかです。これまで、一度この「模範的」レベルに達した企業は例外なく、このレベルのパフォーマンスを長期にわたって維持できることがわかっています。加えて、2015年に「部分的」レベルと評価された日本企業の過半数が、2020年までにパフォーマンスを「確立」レベルまで引き上げました(68%)。
サステナビリティに対するより包括的なアプローチが必要
日本企業は2015年以降、サステナビリティへの取り組みに関して明らかな進歩を遂げてきました。2015年と2020年のどちらの年度でも評価を受けた企業のうち、43.4%がスコアを大幅に向上させ、EcoVadisのパフォーマンス評価において以前よりも上位のカテゴリーに移行しました。しかし、EUや北欧の企業と比較すると、日本企業がサステナビリティに関する問題に取り組む点でこれ以上後れを取ることなく、最終的に差を縮めるには、努力すべき余地がかなり残っています。とはいえ、「倫理」、「労働と人権」、および「持続可能な資材調達」のテーマに関してはOECD諸国の企業に及ばないものの、「環境」のテーマでは、2020年の評価でOECD平均のパフォーマンスを上回り、EU平均にあとわずかのところまで迫っています。最近行われた地球温暖化対策の推進に関する法律の一部改正など、近年の立法上の取り組みを踏まえると、日本企業が今後数年間で気候・環境面のパフォーマンスをさらに大きく改善させるための体制が整っていると考えられます。これは間違いなくポジティブな傾向ですが、日本企業が世界を牽引する存在になりたいのであれば、サステナビリティに対してより包括的なアプローチを取る必要があることは明白です。
こちらからMeasuring the Sustainability Performance of European Companies 2021 レポートをご覧ください。My Indexオンラインで地域、国別、業種別のグローバルデータセットを検索することもできます。
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